What does “Analogue” Mean to You?
Profile
Maryama Luccioni
カルト的人気を誇るベルリンのナイトパーティー「アフリカン・アシッド・イズ・ザ・フューチャー」の主宰者。マリャーマ・ルシオーニは、同パーティーの選曲を「アフロからテクノに至る多彩なバリエーション」と定義している。その理由を明快に語る。「なぜなら、アフリカはあらゆるビートの母であり、ビートは時間の流れそのもの。テンポに合わせて心の鼓動を刻み、心地よいグルーブでステップを刻みましょう。ナイジェリア、エチオピア、コンゴのアフロリズムでトリップしながら、エレクトロニックサウンド、コズミック、サイケデリックなバイブレーションも楽しんでください」
マリャーマ・ルシオーニ (Maryama Luccioni)の人生は、北へ北へと導かれてきた。子供時代はコルシカ島で地中海の陽光を浴びながら育ち、10代から20代前半は賑やかなパリへ。ここ6年はベルリンで暮らしている。ヨーロッパを移動しながら、両親のルーツであるアフリカも忘れたことはない。ベルリンで毎月開催されているパーティー「アフリカン・アシッド・イズ・ザ・フューチャー (African Acid Is the Future)」の共同主宰者を務め、3人いるレジデントDJの1人として「マリーゾンアシッド(Maryisonacid)」のDJネームで活動している。 パートナーはウルフオンアシッド(Wolfonacid)とダウド(Dauwd)、さらには世界中から招いたゲストたちだ。ポストパンク、ハウス、ジャズなど幅広いジャンルのレコードをミックスしながら、深淵なアフリカの鼓動を表現している。いわく「アフリカはあらゆるビートの母であり、ビートは時間の流れそのもの」という。
世界中でレコードを探し続けてきたマリャーマ・ルシオーニにとって、レコード収集は本能のようなライフワーク。先祖から受け継いだ伝統や生き方に加え、あらゆるものを分かち合おうとする共生の心が音楽の世界で輝きを放っている。進化を続ける「アフリカン・アシッド」の現在、冒険的な選曲家としての野望、レジデントDJの役割などについて語ってもらった。
01
Analugue is...
アナログと聞いて、まず思い浮かぶのは温かい手触り。それと本物ならではの存在感ね。
アナログという言葉から連想するのはどんなこと?
アナログと聞いて、まず思い浮かぶのは温かい手触り。それと本物ならではの存在感ね。たとえば、私たちのパーティーを撮影してくれている写真家はアナログカメラにこだわっていて、撮影のときには、いつも目立たないように動いて、パーティーを邪魔したり、演出したりせずに本質を捉えてくれるの。彼の写真シリーズはとびきり上質な世界観を表現しているんだけど、その要因はきっとアナログで撮影してるからだわ。
子供時代を過ごしたコルシカ島のレコード収集環境は?
レコード収集みたいな世界があることさえ知らなかったわ。子供の頃は、コンセルヴァトワール(音楽・舞踊・演劇・工芸の教育機関)でバレエのレッスンに打ち込んでたから、収集癖に目覚めたのはずっと後。私が知る限り、故郷の町に本物のアナログ盤を取り扱うレコード店はなかったわ。でもティーンエージャーになって、いろんなヴィンテージものに興味を持ち始めたの。最初は本や服に惹かれて、やがてレコードも対象になっていった。15〜16歳の時にフリーマーケットで掘り出し物を収集し始めて、今もまだコレクションを続けてるわ。
02
The Beginning
初めてレジデンスDJとしてパーティーを開催させてくれた愛すべきロフタスホール、そしてやりがいのある現在のフェストサールに至るまで、会場の魅力を最大限に活用しようという基本的な方針は変わらない。誕生時から、大切な原則には何ひとつ変更を加えていないの。
小さなパンクバーで始まったパーティー「アフリカン・アシッド」が、クロイツベルク地区のフェストサールで開催される月例イベントにまで成長したいきさつは?
プロジェクトが成長しているのは幸運のおかげね。いつもそう考えてきたから、大きな変更をするときは慎重になるわ。ロフタスホールに会場を変えたときには、会場の暑さや部屋の小ささがちょっとした問題になったの。すぐに満員になってしまうから、入場できない人から不満の声が上がったの。でもパーティーはまだ黎明期だったし、ここが分相応の場所なんだって自分に言い聞かせていたわ。そして最終的には、何事にも潮時があるという法則を学んだの。会場の変更は、いつか必要になるけど、わずか数か月で引っ越すのは時期尚早。浮上した問題を前に、慌てて方針を変更することは避けけないと。会場がどこであっても、パーティー誕生時のエッセンスを維持したいって考えていたから。
「アフリカン・アシッド・イズ・ザ・フューチャー」は、小さなヘルツバーから自然発生的に生まれたパーティーなの。それでも目指す目標や、メンバーの人選については明確なビジョンがあったわ。初めてレジデンスDJとしてパーティーを開催させてくれた愛すべきロフタスホール、そしてやりがいのある現在のフェストサールに至るまで、会場の魅力を最大限に活用しようという基本的な方針は変わらない。誕生時から、大切な原則には何ひとつ変更を加えていないの。ゲストDJたちが醸し出す雰囲気も維持しながら、パーティーの規模を発展させてきたの。
たとえばパーティーで演奏する生バンドが前半だけでなく、パーティー全体を支える構成にするのはこだわりのひとつね。バンドはパーティーの方向性を体現してるから、最後まで演奏してもらうことも大事な目標のひとつ。現在のフェストサールも、ありきたりなクラブとは一線を画しているでしょう。絶えず想像力を働かせて刺激的な展開にできるように知恵を絞っているのよ。試行錯誤を重ねながら、今ではすっかり定番の流れも確立しているわ。パートナーのロマン・アザロが、ラムダ・ラボ(Lambda Labs)とコラボしながら素晴らしい室内音響を実現してくれてるしね。パーティーは、そう絶えず流動的に変化しているわ。
03
About Music Creation
「アフリカン・アシッド」の観客には、即座に理解できないものでも受け入れる度量があるの。そんな観客の反応には、いつも驚かされるのよ。だから正直に言えば、観客の反応はさほど気にしてないの。反応を気にしすぎると、大切な自分のグルーブを見失ってしまうからね。
ベルリンや他の都市で、レコードを探すお気に入りの場所は?
ベルリンなら「OYEレコード」や「ハードワックス」。ザ・ストアX内にある小さな「フォニカ・レコード」のアンテナショップもいいのよね。有名店が中心だけど、偶然見つけた小さなレコード店も一通りチェックするわ。でも正直に言えば、目的のレコードは実店舗よりも、最近はインターネットで見つけることが多くなってきたかな。
指でパラパラとレコードをはじきながらジャケットを眺めたり、未知のレコードとの出会いを楽しんだり、各店特有のくつろいだムードや緊張感を感じたりするのは大好き。だからすべてがネット優勢になるのはちょっと残念ね。 パリではいつも「スーパーフライ」に自然に足が向いてレコードを探すの。旅行先では地元の人に尋ねてレコード探しに出かけているわ。
月ごとのDJによって大きく印象が変わる「アフリカン・アシッド・イズ・ザ・フューチャー」ですが、レジデントDJとしての役割は?
レジデントDJの役割は、点と点をつなぐことね。パーティーとゲストの方向性を結びつけて、ひとつに調和させることが大切。「アフリカン・アシッド」ならではのユニークなサウンドも明確に定義してきたわ。パーティーの黎明期からフォローしているみなさんは、私たちのシグネチャーサウンドに共鳴してくれるの。会場ではそんなつながりを感じながら、ゲストと絶妙なバランスを取って、DJブースから消えて、また再登場するタイミングを間違えないようにって気をつけてるわ。
これまで真にオープンマインドな観客を育ててきた「アフリカン・アシッド」ですが、即座に大きな反応が得られない難解なレコードでも自分を信じてプレイし続けますか?
「アフリカン・アシッド」の観客には、即座に理解できないものでも受け入れる度量があるの。そんな観客の反応には、いつも驚かされるのよ。だから正直に言えば、観客の反応はさほど気にしてないの。反応を気にしすぎると、大切な自分のグルーブを見失ってしまうからね。特定のレコードを押し付けるようなことはしないけど、受け入れてもらうのが難しいレコードもあるわ。でもそのレコードが、最終的に受け入れられて観客を満足させるっていう可能性も否定はできないと思うの。
これから時代が移り変わっても、刺激的なパーティーを主宰し続けるための秘策は?
パーティーは流動的なムーブメントだと思う。自分が暮らす街でも、その外部に広がっている世界でも。ひとつの時代を創っている喜びや、期待を感じさせてくれる幸運な存在でしょ。そう考えると、やっぱり最も重要なのはプログラム構成ね。たとえば先駆的な音楽的実験を追求しているアーティストをゲストに招待する。これまでに確立した音楽を土台にしながら、ライブパフォーマンスでのサプライズを取り入れることで、また新しい未来が切り拓けるでしょう。会場をフェストサールに変更したのは少し前だから、まだしばらく新鮮な印象を持続できると思うわ。これまでのパーティーとも深い調和を感じさせてくれる理想的な会場よ。会場の中には、素敵な中庭もあるから春になるのが待ちきれないわ。あとは夏休みのバケーション。海に飛び込んで、しっかりと休息をとりたい。お知らせしたくてたまらない秘密の計画もあるから、それは発表を楽しみにしていて。
木々とフルーツに囲まれた環境とレギュラーDJのプレイは定番ですが、毎月のゲストによってスタイルが変化する「アフリカン・アシッド」。常に新しい体験を生み出すため、運営に難しさを感じますか?
難しいのは、音楽よりも物理的な運営面。ゲストたちのスケジュールを抑えて、バランスがとれたパーティーを計画して、最大限のエネルギーを投じながら、理想的なシナリオを比較検討して…。チームメンバーのダウドは、いつも最高のタイミングで提案を持ち込んでくれる人。計画通りに物事が進まないことも多い世界だから臨機応変な対応も必要なの。でもうまくいったときに、これほど大きな満足感を得られる仕事もないわ。これまでの私たちは、かなり幸運に恵まれてきた。昨年のアマドゥ&マリアムのプライベートショーも大成功だったし「今月はコズミック、トライバル、サイケデリック、エレクトロニックな路線で行こう」なんて相談することもあるの。パーティーは、いつも多彩な要素を組み合わせる折衷主義。主体となる小テーマも毎回さまざまに変化させてるの。
文:ジョン・ソープ
写真:Camille Bokhobza
Next Voice
What does “Analogue” Mean to You?
Khruangbin
“作品に面白いテクスチャーや変動的なものを吹き込むチャンスがあるんだ。”
ローラ・リー(ベース)、マーク・スピアー(ギター)、ドナルド・DJ・ジョンソン(ドラム)から成るテキサス出身の3人組。