What does “Analogue” Mean to You?

Love Injection’s Barbie Bertisch and Paul Raffaele

“アナログとは触覚で感知できるような性質を備えたもの。”

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Profile

Love Injection’s Barbie Bertisch and Paul Raffaele

2015年2月に創刊された『Love Injection』は、ポール・ラファエル (Paul Raffaele) とバービー・バーチッシュ (Barbie Bertisch) の共同編集によるzine。『Love Injection』は、絶えず移り変わるダンス・ミュージックのカルチャーを称える重要なプラットフォームとしての地位を瞬く間に確立。

2015年から、バービー・バーチッシュ (Barbie Bertisch) とポール・ラファエル (Paul Raffaele) は、ニューヨークのアーティストやプロデューサー、DJ、レコードレーベル、プロモーター、ダンサー、といった音楽関係者のコミュニティを記録し、賞賛するインデペンデントのzine『Love Injection』を共同編集しています。ともにDJであり、Loftの常連でもある2人は、長年親交のあるデヴィッド・マンキューソ (David Mancuso) とコリーン・マーフィー (Colleen “Cosmo” Murphy) に誘われ、彼女の『Classic Album Sundays』のリスニングイベントのニューヨーク編のプロデュースとホストを務めることになったことがきっかけで、ハイエンドアナログオーディオの世界に足を踏み入れることになりました。

それ以来、彼らは定期的に開催される「Universal Love soirées」で、インクルーシブで音の暖かさを祝うパーティーという、ロフト (Loft) の理念を継承し続けています。そして「Love Injection Records」を立ち上げ、彼らの音楽に最も深く共鳴するアーティストをサポートし、盛り上げるための新たなプラットフォームを提供しようとしています。これまでで最も野心的な出版活動は、近々出版予定の書籍プロジェクト『Dope From Hope』です。(コロナ前に「Kickstarter」キャンペーンとして発表され、その後休止し、今年後半に再始動予定)。このプロジェクトの目的は、Klipsch Audioの創始者であるポール・W・クリプシュ (Paul Klipsch) の著作をアンソロジー化して、ハイファイにまつわる不可解な考え方は誤りであると証明してみせることです。これはその昔、デヴィッド・マンキューソが、Loftのサウンドシステムを構築しながら「オーディオの忠実性」という個人的な理想を追求するために研究していたテーマです。このような背景の中、バービーとポールに「彼らの音の旅」についての考えを聞きました。

01

Analugue is...

アナログとは触覚で感知できるような性質を備えたもので、独自のエネルギーがあるものだと思う。

アナログとは…

バービー : 私としてはアナログという言葉から「レコード」をすぐに思い浮かべるわ。たくさんレコードを集めているからね。それからアナログの音楽再生機器に夢中になっている人間として言えるのは、アナログとは触覚で感知できるような性質を備えたもので、独自のエネルギーがあるものだと思う。ある種の宇宙的な意味でモノについて語るとき、モノには独自のエネルギーが宿っているという考え方がある。そして、レコード、ターンテーブル、雑誌など、すべてのモノには、それ独自のエネルギーが内在している。私は、アナログというのはまさにこうしたエネルギーのような性質を備えたもので、コンテクストを提供できるものだと考えているわ。

ポール : 「レコードや本のライブラリーがもたらしてくれるエネルギー」について考えると、インスピレーションを引き出したり、マンネリ化した日々から精神的に抜け出したりといった手助けをしてくれたりするライブラリーがあるっていうのは本当に特別なことだね。本がもたらしてくれるエネルギーは目に見える形で理解できるのがいいんだ。一方で、デジタルで何かを読んだり聞いたりするとき、そのエネルギーを受け取れるかどうかは(必ずしも)分からないかな。雑誌の場合であれば、その大きさや紙質、文字の大きさ、そういったものによって、どう持つか、どう読むかが決まってくる。レコードの場合であれば、まずライナーノーツを読んだり。モノを構成するすべての要素が、その読み方や、聴き方に影響を与えるんだ。コントロールの要因はもっとたくさんある。音楽であれ読書であれ、アナログのモノとどう付き合うかは、それぞれ個人的な嗜好性があるんだ。

02

The Beginning

すべては意図次第だと言えるわ。何かが存在するためには、まずその背後に意図がなければならないわ。私たちがやっている多くのこと、たとえパーティーを開くことであっても、共通しているのは、それらはすべて意図から始まるということ。

では、アナログなモノとの付き合い方を意識することは、雑誌であれ、本であれ、レコードであれ、そういったモノの作り手であるおふたりにどのような影響を与えるのでしょうか。

ポール : どうだろう。私たちが『Love Injection』で提供したいことのひとつは、スクリーンからの解放なんだ。だからデジタルプラットフォーム上で私たちの手掛けたモノと、皆さんが接する方法を制限しているのは、とても意図的なものなんだ。というのも、そのスクリーンの輝きから抜け出してモノと接してほしいから。脳が他のデジタルなものに気を取られないようにしてほしいからね。

自分のクリエイティビティを探求する方法について考えると、私が何度も立ち返るのは、自分の仕事のために苦しむのが好きだってことなんだ。自分の全力を注いで何かを作り、それを世に送り出して、その何かが誰かに幸せをもたらすようなモノになっていくのが喜びなんだ。そして、何かを完成させてその効果があったとき、私はある種の完全さを感じるんだよ。

『Love Injection』に非常に満足している理由のひとつは、この一連の作品をほぼ受動的に作成することができたという点。私にとってデザイン(にプロとして携わること)は、あまりにも商業的な世界に取り込まれてしまっているように感じる。それは常に「仕事」になっちゃうね。でも、『Love Injection』をデザインするにあたっては、デザイン自体のことはあまり考えず、作品に何が必要かということを集中して考えることができる。さまざまなアイデアを模索してみて、いくつかの号には私のデザインスタイルがより反映されていく。私はそれを受動的な行為と捉えているんだ。例えば(Love Injectionの)64号を振り返ってみると、さまざまな理由でこのプロダクトを誇りに思うんだ。そこで語られるストーリー、自分がした作業、バービーと私の共同作業…、私たちの関係はこの雑誌に基盤があって、同時に始まったようなものだからね。

バービー: すべては意図次第だと言えるわ。何かが存在するためには、まずその背後に意図がなければならないわ。私たちがやっている多くのこと、たとえパーティーを開くことであっても、共通しているのは、それらはすべて意図から始まるということ。そしてその意図を形作るのは感情の集合体。つまり、これから始めようとしていることに対する希望や夢を集めたものね。

03

About Music Creation

その知識の追求はリラックスして何かをじっくり聴き、それに注意を払うことから始められる。参入の障壁はなくて、門番もいない。私たちがここで伝えようとしているのはそういうことなんだ。

『Classic Album Sundays』や『Dope From Hope』のようなプロジェクトを通して、ハイエンドアナログオーディオの世界にどっぷりと浸かるようになった今、ハイファイに対するおふたりの見方はどのように進化したと思われますか。

バービー : リスニングカフェやハイエンドオーディオダンスクラブがある今の時代、ハイファイの世界というのは、これまで一般の人々がイメージしていたハイファイの世界と全く異なっていると思うわ。つまり、男の隠れ家とか、高級スピーカーやターンテーブルで埋め尽くされた地下室のようなものとはね。コリーン・マーフィーと『Classic Album Sundays』が目指しているのは、そのギャップを埋めて、新世代のオーディオファンや音楽愛好家にハイファイのコンセプトを紹介することなの。それはアナログ的なものに立ち返り、こうした物質的なものがどのように独自のエネルギーを持つか、どのように自分の生活の一部となるか、そして自分がどのようにそれらと関わるかを実際に学ぶことになるの。レコードコレクションのようなものね。ハイファイにハマり始めると、いろいろなものを集めたり探したり、音を良くするためにあちこち微調整し始めたりする。科学的には最高の音もあれば、最悪の音も存在する、と言う人がいる。ひょっとしたらその通りかもしれないけど、でも、いい音っていうのは、本当に自分に語りかけてくるものだと思うわ。私は温かみのあるサウンドシステムが好きだけど、精密さを好む人だっている。すべては個人の好みでいいの。

ポール : おかしなもので、この仕事を始めて数年経っても、私はずっと混乱していたんだ。学生のときには、自分たちよりも経験豊富な人たちが彼らの好みのサウンドについて話すのを聞いていた。そのとき頭の中ではいつも「さて、誰を信じればいいのやら」と考えてたね(笑)。ケーブルが重要だという人もいれば、ケーブルは重要ではないという人もいる。ある人はこの高さにすべきだと言うし、別の人はあの高さにすべきだと言う。この謎解きのような混乱のようなものは、きっといつか経験を重ねていけば理解できるのだろうと思っていたんだ。でも、ある時シドニーでクリエイティブな仕事をしているTea Uglowという人の話を聞いて、やっと安心感を得たんだ。彼は音楽業界の人ではないけど、オーディオについて話していて、人間の身体の構造がどのように聴こえ方を左右するかについて話していたんだ。「私たちの耳の形はそれぞれ違うので、聴力が優れている人もいれば、少し劣っている人もいて、それはまちまちです。だから、人それぞれに(異なる)聞こえ方があって、それは非常に主観的なものなんだ」というようなことを言ってくれていて。

クリプシュ(Klipsch)のアーカイブを見ていくと、科学に関する感情についておふたりが引用した言葉があります。* これらのアーカイブを調べる過程で、この2つの事柄の関連性について再考したり、見直したりはされたのでしょうか。

ポール : バービーの言葉に戻るけど、技術的な正確さや精密さを追求するような伝統的なハイファイの世界と、科学の間には違いがあるんだ。そして、私たちが追い求めているもの、つまり、音楽が意図された通りに表現されるような機材を使って聴くときに本当に楽しめるものというのは、私たちが感じるフィーリングそのものなんだ。私たちは音楽的で自然で楽に感じられるラウドスピーカーやコンポーネントに惹かれる傾向がある。それらは私たちをゾクゾクさせるからね。だからクリプシュの宣伝というわけではないんだけど、クリプシュというのは私たちがそのような体感を抱くための手段なんだと思ってるんだ。

バービー : ロフト (Loft) の歴史を学ぶ身としても、クリプシュは私たちの意識の一部になってるわ。私がエンジニアではないということもあるけど。私はDJであって、音楽の熱烈な愛好家であって、勇気があればミュージシャンって名乗るかもしれない。そんな私の音楽への理解に、一部欠けているのは、より科学的な学びのいくつかだと思うの。だからこそ、私たちは『Dope From Hope』プロジェクトを立ち上げたの。ハイファイの世界には簡単に手に入らない知識がたくさんあるから。というのも、ハイファイの世界には、理解できない、あるいは理解する気が起きないような、科学的な言葉の険しい山があって。自分たちにいつも問いかけているいくつかの問題に対して、これらの論文は、ある意味ではより素人的なアプローチを示してくれたの。ポールが言ったように、科学はゾクゾクするような体感を味わうための単なる手段に過ぎなくて。ハイファイサウンドシステムではなく、たとえ必要最小限の「最悪の」サウンドシステムを使用したって、間違いなく感情は湧いてくる。ハイファイじゃないと音楽からゾクゾクするような体感を味わうことが出来ないと言っているわけじゃないの。ただ、私たちが個人的に経験した方法は、ハイファイの世界の鮮明さ、暖かさ、精細さを通してだった。それが私たちの経験の一部なの。そして、それこそが私たちがハイファイを求める理由であって、もっと知りたいと思う理由なの。

アーカイブを見て、他に印象に残ったことはありますか。

バービー : ミュージアムに行ったり、工場に行ったりするのは、とても素晴らしい体験だったわ。というのも、クリプシュに関連する品々だけでなく、歴史をたどることができたからね。アーカンソー州ホープを訪ねるでしょう。そこは南部の乾燥した地方の小さな街で、そこへ行くためには飛行機に2回乗る必要がある。2機目は小さな8人乗りの飛行機だったわ。とても辺鄙な場所で、自分たちの今いるる世界とはかけ離れたところ。だけど、そのおかげで私たちはクリプシュの背景のすべてを理解しながら、新鮮な目で見ることができたの。ある時期には小さな企業だったこともよく分かったわ。スタート地点までさかのぼって「何台のスピーカーが販売されたのか」という台帳や「この人にクリプシュコーンを売った」という住所付きの手書きのメモを見せてもらって。本当にいろんなものがあるのよ。80年代のプロモーション資料や、市場に出回らなかった奇妙なプロトタイプのようなものまでね。

ポール : ジム・ハンター、私たちは彼をとても尊敬しているんだ。彼はクリプシュの元エンジニアで、今は工場のすぐ近くにある「Klipsch Museum of Audio History」の学芸員で、管理人でもある。それはまさに無私無欲の努力の賜物なんだ。私たちが『Love Injection』で目指していることと重なって見えたよ。ミュージアムは毎日開いていて、彼は毎日そこにいて、いつも丁寧に陳列をしている。もうそれを見ているだけで感動してしまって。彼らが調べ上げた論文のアーカイブを使って、そこから私たちが『Dope From Hope』を作り上げたのは、つい最近のことなんだ。今は、彼らと一緒に仕事をする中で、彼らが持っているものと、ポール・W・クリプシュが書いたものの広がりを、真の意味で理解できるような努力をしているんだ。本当にエキサイティングで、ジムの協力がなければこうしたことはできなかっただろうね。

ここ数年のハイファイに対するトレンドを考えると、このタイミングは適切だとも感じますね。

バービー : 今は誰でも、eBayで2組のHeresyスピーカーを買って、「私たちはハイファイなんとかだ!」ということができるわ。だけど、つまるところファッションと同じで、お金でスタイルは買えないわ。知識もお金では買えない。理解をさらに深めるには、本当に努力しないと。このスピーカーを買おう、それで私はオーディオマニアだ、というだけではダメなの。驚くほど安くて手頃な値段で、信じられないような音を出す製品は沢山ある。オーディオマニアになるというのは、それが高価だからということじゃなくて、より良い音を聴くために知識を追求することに興味があるということが大切だと思うわ。

ポール : そして、その知識の追求はリラックスして何かをじっくり聴き、それに注意を払うことから始められる。参入の障壁はなくて、門番もいない。私たちがここで伝えようとしているのはそういうことなんだ。とにかく、もっと一心に耳を傾けて、音楽が素晴らしい価値を持つものだと感じてほしいんだ。

* 「音楽は感情に関係するが、その再現(感情への影響を含む)は、他の物理科学と同様に冷徹で科学的である」 – The Dope From Hope, Vol. 1, No. 1, August 16, 1960

文 : Jeff Mao
写真 : Meredith Jenks

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What does “Analogue” Mean to You?

Edan

“地球そのもの、だと思うよ。それ以上に「温もり」かな。”

MC、DJ、ミュージシャン、プロデューサー。遊び心を持って「グランドマスター・マルチ・タスカー」を自称。

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