What does “Analogue” Mean to You?
Profile
Donna Leake
ロンドンのブリリアント・コーナーズ (brilliant corners)のレジデントDJ。現在はブリリアント・コーナーズや、世界各地の会場で最上の音楽体験を追求している。
ロンドンのブリリアント・コーナーズ (brilliant corners)で、レジデントDJを務めているドナ・リーク (Donna Leake)。ロンドンには音楽との新しい付き合い方を提案している場がいくつかあり、ブリリアント・コーナーズもそんな店のひとつだ。ヴィンテージのオーディオシステムで音楽を聴きながら繊細な日本料理を味わう。ドリンクは厳選されたカクテルや自然派ワインが中心。このユニークな音楽体験こそブリリアント・コーナーズの本領だ。
ドナ・リークは自らのことをDJである前に、1人の音楽ファンであり、ダンサーであり、リスナーであると考えている。従来のクラブやパーティーでは、音楽への愛を感じたことができず、満たされぬ思いを抱きながら大人になり、ようやく音楽を本当に楽しめるアプローチに出会った。きっかけはロンドンでデヴィッド・マンキューソが主催した会員制パーティー「ロフト (Loft) 」だった。「音楽を聴いて踊るだけじゃなく、極上の音楽を探し求めてみんなと共有する。」「これまでの音楽体験をますます素晴らしいものへと進化させていく方法に思いを巡らすのが好きなんです。」と言う彼女は、現在はブリリアント・コーナーズや世界各地の会場で最上の音楽体験を追求している。そんな彼女に訊ねてみた。「アナログ」についてどう思っているのか? オーディオへのこだわりはどのように育んできたのか? そして最高のパーティーを開催する条件とは?
01
Analugue is...
アナログは自分にとって新しい世界、アナログの捉え方もまだまだ進化中という感じかな。
アナログという言葉を聞いて、真っ先に思い浮かぶのはどんなこと?
温かみがあって、音質が良くて、手入れが行き届いていて、誠実で、深みを感じさせるもの……。アナログは自分にとって新しい世界、アナログの捉え方もまだまだ進化中という感じかな。
02
The Beginning
しばらくブリリアント・コーナーズで働いているうちに、音そのものが他所と比べようがないほど良質なんだってことにはっと気づいたの。そうか、音の質がぜんぜん違うんだって。そのとき初めて、うん、正しく理解できたって思ったの。
アナログに関心を持つきっかけになった人物や出来事は?
初めて音楽をアナログのシステムで聴いたのは19〜20歳の頃。当時はノッティンガムの実家暮らしで、パーティーやクラブに出かけても音楽に没頭できなかった。踊ったり、はじけたりするのも苦手で、自分は永久にこのままなんだろうと思っていて。そんな時、ある友人に「ロフト」(デヴィッド・マンキューソがニューヨークで創始した伝説の会員制パーティー)がロンドンでも開催されることを教えてもらい、1人で電車に乗って向かったの。そこで、生まれて初めてね。パーティーを楽しみ、心が解放される感動を覚えたのは。それまでに行ったことのあるどんなパーティーとも違っていて、もう興奮のあまり、踊ることもできたりして。当時は音響システムについてはまったくの無知だったので、あれは音楽や人や空間のエネルギーのおかげなのかなと思ってたわ。
ブリリアント・コーナーズに出会ったのは、それから何年も後のこと。最初はなぜあの店が気に入ったのか上手く説明できなかったし、働き始めてからも好きな理由をはっきりと特定できなかった。でも以前の音楽の聴き方とは、はっきりと「何かが違う」と感じていて。すぐ後にロンドンのパーティー「ビューティ・アンド・ザ・ビート (Beauty and the Beat)」で、また他のパーティーとは別格の時間を過ごしたんだけど、この時もまだ音響システムのことは頭になくて、やはり音楽や人やエネルギーが違うのだって考えてたわ。でも、しばらくブリリアント・コーナーズで働いているうちに、音そのものが他所と比べようがないほど良質なんだってことにはっと気づいたの。そうか、音の質がぜんぜん違うんだって。そのとき初めて、うん、正しく理解できたって思ったの。
ブリリアント・コーナーズでのDJ経験から学んだことは?
ブリリアント・コーナーズとの出会いで、本当にすべてが変わったわ。ここ以外の場所で音楽を聴きたくないって、けっこう長い間思っていたほどにね。影響を受けた理由は音響システムだけじゃなくて、創業者のアミット・パテルとアニーシュ・パテルが、2013年末にこの店をオープンさせるまでの苦労話にも心を打たれた。この空間に充満する音楽や人のエネルギーからも多くを学んでる最中だわ。完璧なパーティー、完璧な音楽体験、完璧な選曲の流れなど、自分の理想にもっとも近い存在を見出したような気分というか。
新しい音楽もたくさん聴くようになって、それが自分のエネルギーになったと感じてる。音響機器の考え方や、音の感じ方まで変わったわ。マイナス面があるとすれば、あの音の響きに慣れてしまうと、他所の環境で音楽に没頭できなくなることね。でもブリリアント・コーナーズでDJをするたび、音楽の力や、リスナーの感性を信頼する訓練になっていると感じるの。
食事やドリンクなど、ブリリアント・コーナーズのサービスと音楽体験との関係は?
すべてが素晴らしい品質を保ってるわ。ブリリアント・コーナーズが用意するものには、本物の愛情と情熱が備わってるから。食事も、飲み物も、音楽の質も、絶えず進化して、ますますレベルが上ってる。
以前は「レストランサービスなんかやめちゃえばいいのに」と思ってたこともあって。早い時間帯から照明を落として、クッションに腰かけたり踊ったりすれば、もっと音楽に没入できるのにと思ってたの。でもお店のサービスが、時間をかけて現在の水準にまで高まっていった過程に立ち会って、本当に魔法のような経験ができたって感じてる。だから今は何も変えてほしくない。美味しい食事を楽しみながら、最高の音響システムで、良質な音楽を聴くのはとても贅沢な喜びでしょ。
03
About Music Creation
大切なのは、あらゆる要素を組み合わせた総合力。音質、音楽、照明、人々の熱気とか、主要な項目が合格点に見えるときでも、もっと素晴らしいパーティーにできないものかと知恵を絞ること。
ゲストDJとして、これまで印象に残っている会場は?
モンテネグロのブドヴァにあるキャスパー・バー(Casper Bar)、ミラノのプラスティック (Plastic)、チューリッヒのカシーム (Kasheme)、ストックホルムのホテル・アット・シックス (Hotel At Six)、トレビーゾのディスティレリア・クラブ (Distilleria Club)、ハンブルクのゴールデン・プーデル (Golden Pudel)、ロンドンのサーバント・ジャズ・クオーターズ (The Servant Jazz Quarters)、ロンドンのフォノックス (Phonox)、ジェアイアント・ステップス (Giant Steps)のテント[2017年ホートン・フェスティバル (Houghton Festival)]、トロントのバンビズ (Bambi’s)。みんな本当に素晴らしい会場ね。
最高の夜が演出できる条件を1つだけ選ぶなら?
大切なのは、あらゆる要素を組み合わせた総合力。音質、音楽、照明、人々の熱気とか、主要な項目が合格点に見えるときでも、もっと素晴らしいパーティーにできないものかと知恵を絞ること。たとえば、フロアをもっと掃除しようとか、トイレやバーとの位置関係を変えてみようとか。場合によってはバーを取り払ってもOKだし、果物やジュースに囲まれている環境だって素敵。うっとりするような自然の香りを漂わせたり、喫煙エリアにもスピーカーを備え付けたり、座って休めるクッションを用意したり、いっそ電話を禁止してみたり。未知の音楽を探すのと同じ感覚。こういう工夫に終わりはないし、絶えず変化していくものだと思うから。
アナログ機器、レコード、ヴィンテージのハイファイなどに惹きつけられるのは、どんなタイプの人?
特定のタイプの人に限られる訳ではないでしょう。世界中で、いろんなタイプの人たちがアナログに夢中になってるからね。ただ1つだけ全員の共通点があるとすれば、それは音楽への愛ね。
レコードが好きで、音楽に没頭する時間が好きで、そんな気持ちを共有できる場所が好きだって自覚している人なら、もっと素晴らしい体験を求めて音質にもこだわるようになるでしょう。でもそれが音楽ファンの絶対条件だとは思わないわ。音楽の虜になってデジタル環境を整える人もたくさんいるし、自分もその1人だったし。でも同じ音楽をアナログ機器で聴いたら、もっと深い世界が広がっていることに気付いたの。ハイファイなんか使わなくても、ありったけの音楽を聴いて探求を続けられる人は昔からいたしね。人類が始まって以来、長い時代を音響システムなしで過ごしてきたんだから。楽器や、人の声や、部屋の音響効果があれば十分だし、究極的には自然の音に耳を傾けるだけでも深い体験や癒しがもたらされるからね。
音楽関係者で、憧れや敬意を感じている人は?
まずはブリリアント・コーナーズのオーナーであるアミットとアニーシュ。自分たちの価値観に自信を持ち、多くの人を巻き込もうと伝え方を進化させてる。音質も、店内の環境も、おもてなしにもこだわって、DJやライブミュージシャンたちと音楽への愛を共有している。2人が立ち止まる姿は想像でできないわ。あとはビューティ・アンド・ザ・ビートのセドリック・ウー (Cedric Woo)、シリル・コルネット (Cyril Cornet)、ジェレミー・ギルバート (Jeremy Gilbert)と仲間たち全員。完全にユニークなパーティー体験を13年も提供し続けてる。たかだか3年の付き合いしかない私は、最初の10年の盛り上がりを知らないから想像するしかないけど。今でもパーティーを訪れるたびにワクワクしてるわ。
素晴らしい仕事をしている人は何百人もいるので、多すぎて個別に名前を挙げることはできないわ。音楽を創る人と、その音楽を見い出して広める人。機器を造る人や目利きのエンジニア。パーティーやお店を運営する人に、会場を盛り上げるダンサーとリスナー。イベントの構成を考えたり、宣伝して人を呼び込んだり、ラジオ局を立ち上げたりする人も、新しい時代の語り部になってる。挙げたらキリがないけど、素晴らしい音楽体験の創出に関わるすべての人との出会いに感動してるわ。
アナログの世界で、次にやってみたいことは?
何でもやってやろうという気持ちと、何も変えたくないという気持ちが半々。
頭の中では空想の世界が出来上がっているものの、これといった特定の目標はないの。最高の音楽環境、最高のパーティールーム、一流の楽器や機材を完備した最高のスタジオをいつも思い描いてる。知識を伝承して、もっと素晴らしい音質で、驚きの音楽体験を提供できないものかなと思案してるの。他の誰かの体験について聞いたり、自分自身で体験したことを土台にして、理想の音楽体験とは何かってね。
片方の目でしっかりと現実を見つめ、もう一方の目は閉じて理想の世界を夢見る。今はそんな感じね。
文・構成:Greg Scars
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What does “Analogue” Mean to You?
Maryama Luccioni
“まず思い浮かぶのは温かい手触り。それと本物ならではの存在感ね。”
カルト的人気を誇るベルリンのナイトパーティー「アフリカン・アシッド・イズ・ザ・フューチャー」の主宰者。